刳貫について
- 稜線のチカラ、窯炎のチカラ -
土に全身全霊を傾注しその量塊が激しく胎動するとき、面と面はせめぎあい生命力溢れる稜線が生まれます。
この必然でもあり偶然でもある稜線は、単なるかたちの輪郭線ではなく、かたちのムコウへムコウへと誘い、視覚の領域外をも連想させる造形の要素(チカラ)となります。
土の塊で造形し後に中を刳り貫いて仕上げる手法を「刳貫」と称し、平成元年はじめて日本橋三越において発表しました。
爾来、轆轤でスタートした作陶活動は既に四十年を超え、また模索の中で生まれた刳貫手法は、形態がかなり複雑であってもそれなりに熟せるようになってきました。
重力に逆らうような(例えば反りのある)形態は緊張感や浮遊感を有しますが、その工程は実に不安定で難儀です。
さらに窯の中では高熱と重力との負荷により、往々にして変形や自己破壊を齎します。それでも種々の物理的制約を超えて果敢に挑戦していかないかぎり、新しい陶造形は生まれません。
工程の最終章である窯焚きは、経験値から理想の焼き上がりを念頭に細心の思いで炎を制御し、時には無理を強いていきます。
まさに登窯の醍醐味です。
灰被、窯変、梅花皮、御本等は登窯の大きな属性として形態に雅趣を誘起します。
窯炎とはまさに妖艶であって、屡々その魔力魅力に誘惑されそうになりますが、そこは理性でもってこちら側に引き寄せ、表現の一要素(チカラ)として律しなければなりません。
斯くして稜線のチカラによる塊造形は窯炎のチカラでもって刳貫の完成形として掉尾を飾ります。
兼田 昌尚